最高裁判所第二小法廷 平成8年(オ)1681号 判決 1998年3月27日
上告人
北澤恒人
右訴訟代理人弁護士
美和勇夫
被上告人
株式会社赤羽コンクリート
右代表者代表取締役
早川漻
右訴訟代理人弁護士
福岡宗也
田中智之
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする
理由
上告代理人美和勇夫の上告理由について
商法二五七条三項所定の取締役解任の訴えは、会社と取締役との間の会社法上の法律関係の解消を目的とする形成の訴えであるから、当該法律関係の当事者である会社と取締役の双方を被告とすべきものと解される。これを実質的に考えても、この訴えにおいて争われる内容は、『取締役ノ職務遂行ニ関シ不正ノ行為又ハ法令若ハ定款ニ違反スル重大ナル事実』があったか否かであるから、取締役に対する手続保障の観点から、会社とともに、当該取締役にも当事者適格を認めるのが相当である。
したがって、取締役解任の訴えを会社と当該取締役の双方を被告とすべき固有必要的共同訴訟と解し、会社である被上告人のみを被告として提起された本件取締役解任の訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官福田博 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治 裁判官河合伸一)
上告代理人美和勇夫の上告理由
<判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背について>
原審判断には、法令の解釈・適用を誤った違法があるので、原判決は破棄されるべきである。
すなわち、
一、原審は、商法第二五七条第三項の取締役解任の訴えは、当該取締役と株式会社とを共に被告とすべき固有必要的共同訴訟であるとして、株式会社である被控訴人のみを被告として提起した本件訴えは不適法と判断しているが、この原審の判断は法令の解釈適用を誤っており、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
二、原審判決は、本件取締役解任の訴を「……、少数株主が直接会社と取締役との間の委任関係の解消を求める形成の訴えと解するのが相当で、……」としているが、理解しがたい。
本件訴えは、直接会社と取締役との間の委任関係の解消を求めるものではなく、株主総会の決議を判決による修正によって、取締役解任を実現するものである。
本件は、取締役の地位を奪うという点では、たしかに形成の訴えである。しかし、本件訴えは、右に述べたとおり、会社(株主総会)が取締役の解任を否定したことを判決を通して修正するもので、単にその取締役に対し取締役としての地位を退くことを請求するものではない。
原審は、判決によって取締役の地位の剥奪が生じるのは、会社とその取締役の委任関係の終了を求める為であると解しているようであるが本件は、判決によって、株主総会の取締役解任の決議の否決を修正するものであって、その結果、判決の効力がその取締役に及ぶものである。
四、原判決は、ことさらに取締役の地位の保護に傾く結果となっている。
本訴は、取締役の地位を奪うものではあるが、株主総会により会社が取締役の解任を否決したことを判決で修正しようとするもので、単に取締役に対する地位を退くことを、取締役に対して求めるものではないから会社を被告とすべきである。
本訴は、会社の機関たる取締役の地位の剥奪を求めるものであって、委任関係の終了はその結果として当然に生ずるものである。(会社と被告を共同被告とする必要はない)
本件の関係者である赤羽葆は、単なる取締役ではなくて、被告会社の「代表取締役という地位」にあり、応訴については会社の代理人弁護士とも必然的に具体的事件の検討・対応にせまられる立場(代理人を選定するのは代表者が中心となるもの)にあって、本訴提起・訴訟の内容については個人的にも十分知るところであり、当該代表取締役に(言い分があれば)その利益保護に関しては、共同訴訟的補助参加を認めることにより十分目的を達しうる。
本件では、第一審の第一回口頭弁論終了後(第二回口頭弁論の二ヶ月前)に、代表取締役である赤羽葆に対し、訴訟告知もなされているのだから、自己弁明・防御をする機会はそれで十分である。(総会での解任決議の否決の具体的審理内容についても同人は出席して十分に承知している)
商法二七〇条一項の「取締役職務執行停止の仮処分」(取締役の解任決議の無効・取消の訴えの場合)の訴えは、被告が会社であり、本訴は併記して規定されていること、解任請求の実質的前提である商法二七二条の株主差止請求権は「特に取締役を被告とする旨明文化していること」から、本訴は反対の文理解釈により会社が被告となる。(最高裁民事局・改正商法に関する民事裁判官合同要領・民事裁判資料二八・一〇〇)
五、本件解任の訴えは、株主総会における解任決議の否決を前提としている。
通常、総会における取締役解任の決議は、商法二五七条二項・商法三四三条により特別決議が要求されている。
このことは、取締役の地位の保護・安定にはつながるが、一方では、取締役が株主の多数派をしめていた場合は、取締役が不正行為等を行っていたとしても、総会の決議では事実上解任が不可能となる。
この為、商法では、少数株主の保護を目的に取締役解任の訴えが規定されているのであるから、被告は会社のみで十分である。
このまま実質審理に入った方が訴訟経済の観点からも合理的であり、本件事案に限っては、このまま本案審理に入っても取締役保護に欠けるものではない。
原審は、実質審理に入ることをいたずらに避けているもので、訴訟経済の点からも好ましいものではない。